褒めること、叱ることの目的・違いや褒める教育の効果について

子どもを褒めるという行為は、しばしば「子どもに媚びている」と捉えられがちです。しかし、教育者として子どもを褒めるのは子どもに媚びを売るためではありません。一口に褒めると言っても、褒めることには色々な目的があります。目的がないままに褒めればそれは媚びていることと同じかもしれませんが、目的があれば教育的意義が生まれます。

「子どもを褒めよう!」と言われるけれど、何のために・どのような目的で褒めれば良いのか分からないということもあるかもしれません。ここでは、子どもを褒めることの目的や意義について述べていきます。

 

叱ることと褒めることの違い

まず、叱ることと褒めることの違いを確認しておきます。叱ることには、してはいけないこと・良くないこと・悪いことのモデルを示すという目的があります。褒めることにはその反対である良いこと・望ましいことを示すという目的があります。

叱られると、子どもは「これはしてはいけないことだ」ということが分かります。つまり教育的意義で考えれば、マイナスの方向に進まないようにすることが出来るということです。これに対して褒められると、子どもは「これは良いことだ」とか、「このようにするのが望ましいのだ」ということが分かります。つまり褒めることの教育的意義とは、プラスの行動に対するイメージを持たせることが出来るというものです。

 

多くの場合、叱るより褒めた方が効果的

教師が叱るばかりだと、子どもは「これはしてはいけない」ということだけしか学習できないためどのように行動すれば良いか分かりません。そのような環境では、消極的な行動しか出来ない子どもになります。褒めることによってプラスの行動に対するイメージを持たせることが出来れば、子どもはそれに向かって努力することが出来ます。その結果、どんどん良い方向に伸びていくようになるのです。教師が子どもの良い行動に目を向けてそれを褒めることで子どもは主体的に伸び伸びと活動できるようになり、その結果望ましい方向へと成長していくのです。

 

褒めることの目的

望ましくない行動に気付かせ改善させる

たとえば授業中、「姿勢が悪い子がいるな・・・」そう感じたとき、「○○さん、姿勢が悪いですよ。」そんな言い方をすればその子は学級全体の前で悪い目立ち方をしてしまいます。そうではなく、姿勢が良い子を見つけて「○○さんの座り方がとても素晴らしいです。」と褒める→「みんなはどうかな?」と言って姿勢が悪かった子がきちんと直したのを確認→「全員いい座り方になりましたね。」と言う。このようにすれば姿勢が悪かった子が傷つくことはありません。それだけでなく、褒められた子も自分の努力を認められて嬉しくなるはずです。

このように、ちょっとしたことであれば注意するより良く出来ている子どもを褒めることで望ましくない行動を自覚させ、改善させた方が子どもの自尊心を保ちながら指導できます。この方法は、本人に自覚がない行動を気付かせたい場合に効果的です。全員の姿勢がだらしないとかふざけてわざと変な姿勢をしているという場合には、褒める方法ではなく座り方を確認する、ふざけをやめさせるなど違う指導をすべきですのでそこは見極めていく必要があります。

 

望ましい行動の共通認識を図る

たとえば大きな声で挨拶をしてほしいとき、教師は一般的に「大きな声で挨拶するようにしよう!」と言うことが多いと思います。大きな声で挨拶をしてほしい、挨拶は大きな声でしなさい、言い方はどうであれ子どもにとっては命令です。いつも命令するばかりだと子どものやる気を引き出すことは出来ません。

同じことを伝えるとしても、子どもの行動の中から望ましい場面を取り上げて褒めるだけで受け取り方が違います。「昨日の朝、○○さんが大きな声で挨拶をしてくれたのがとても嬉しかったです。みんなにもそうして欲しいなあ。」「みんなが毎朝大きな声で挨拶してくれるから先生はとても元気をもらっています。」このように言われると、子どもは大きな声で挨拶をするのが良いことだと学習すると同時に、教師が自分たちの良いところを見てくれていると感じやる気を持てます。

この方法は、日常指導だけでなく学習指導においても使えます。たとえば図工で絵を描かせるときに、「今日気をつけてほしいのは色を何色も混ぜ合わせることと、何色も重ねて美しく表現することです。たとえばこんなやり方があります。こんなふうに筆を使って・・・」このように活動の前に説明することがあると思いますが、子どもに注意して取り組んでほしいこと、やってほしいことなどを全て教師が説明しようとすると、子どもへの指示がかなり多くなってしまい、伝わりにくくなってしまいます。

それよりも、最初の説明でする内容は重要なことだけに絞り、細かい部分については実際に活動させる中でねらいに沿った子を見つけ、褒めた方が指示がクリアになります。「○○さんは絵の具の混ぜ方を工夫してこんな色を作りました。すごい!」「○○さんは青だけじゃなくて白を重ねて海を表現している。本物みたいですね。」このように評価しながら教師の意図を伝えていくと、ねらいがよく伝わります。

また、子どもは教師が説明したことは何となく難しくて出来そうにないと感じてしまいますが、不思議なことに実際に同じ年齢の友達がしたことは「自分でもできそう」だと思えてくるものです。このように、子どもを褒めながらしてほしい行動を伝えていく方法は、指示の数を最小限に抑えるだけでなく子どものやる気を引き出すことも出来ます。

 

子どもの不安を取り除く

教師が日頃から悪いことばかりを取り上げて注意していると、子どもは怒られることを恐れて消極的な行動しかしなくなります。反対に教師が良い所に目を向けいつも子どもの行動を認め感心してあげれば、子どもたちは怒られるという不安が無くなり安心するため、積極的に課題に取り組み全力で作業することが出来るようになります。

このように、何か行動を起こしたとき怒られることが多いか褒められることが多いかというのは子どもの意欲に大きく影響しているのです。注意するよりも褒めながら望ましい行動を強化していくことで、子どもたちの不安を取り除き力を伸ばすことが出来ます。

 

良さを価値づけ自信を持たせる

その子の長所を価値づけ、自覚させて自信を持たせるために子どもを褒めることもあります。人間には1人1人に良さがあるなんてことは当たり前だろうと思いがちですが、子どもたちの中には自分の長所が分からず自信を無くしている子や自分には何の取り柄もないと思い込んでいる子がいます。ひどい時には本人だけでなく親でさえそう思っていることもあるほどです。そこで、教師がその子の良さを言葉にして伝えてあげることが大切になってきます。その子のどこがどんなふうに良いのか、なぜそれが良いと言えるのかを納得できるように伝えてあげることで、本人は「自分にはこんな良さがあるのか。」と自分に自信を持つことが出来るようになるのです。

また、本人がそう思っていなくても周囲が決めつけることによってその子の良さが失われていることもあります。たとえば、引っ込み思案な子に対して子どもたちが「○○ちゃんは暗い」というような印象を持っていたときに、たとえ本人が本当は明るくしたいと思っていても周囲がそれを受け入れてくれないためなかなか勇気を出せず変われないことがあります。しかし、教師が「○○さんの笑顔は輝いていて素敵だね。おかげでみんなも明るくなるよね。」と何度も子どもたちの前で言っていると、その子に対する他の子どもたちの認識は驚くほど変わってきます。すると、その子もその雰囲気に溶け込むように自然と明るく振る舞うことが出来るようになっていきます。このように教師が子どもの長所を価値づけていくことによって他の子どもの見方を変え、その子の良さを引き出すというアプローチの仕方もあります。

 

注意や命令で教えるより褒めた方が“お得”

「~してはいけません。」と悪い行動を注意したり「~しなさい。」と命令したりして子どもを動かすやり方は、その場ですぐに効果を発揮するため手っ取り早く感じます。ですが、このやり方では子どもを動かすためにいつまでも注意や命令をくり返す羽目になります。

その点、褒めるやり方は「こんな時には~すればいい」、「~するのは良いこと」など望ましい行動のイメージを持たせ、教師がしてほしい行動を少しずつ子どもたちに理解させていく方法です。褒めることによる指示は命令よりも心地よく、「こうすることが良いと先生が言ってしたからそうしよう。」と子どもの主体的な行動を促すため、より子どもたちの中に落とし込まれて行きます。そのため、褒めることをくり返していると自然と子ども自ら動くようになるのです。

注意や命令は子どもを萎縮させたり反感を買ったりする場合もありますが、褒める方法は子どもを傷つけることなく、むしろ喜びと自信を与えながら積極性を引き出すことも出来ます。つまり、褒めることは後々楽できて子どもも喜ぶ“とってもお得な方法”なのです。